空力ニュースレター No.05

Aerodynamics

空力ニュースレター No.05

前回のエアボーン事故の続づきです。
フロントダウンフォースは主に地面効果から、リアダウンフォースはリアウイングからでした。リアウイングは床下全体のダウンフォースをも助ける効果があり、それは思われる以上の効果です。 ここでは深入りしませんが、車につけるリアウイングは車をメインウイングとしますとフラップの様な役割を果たします。

シングルエレメントウイング(フラップの付いていない一枚要素のもの)がマイナス8度(前上がり)くらいでもまだダウンフォースを産みます。マイナス8度というと見かけから空に飛んでいきそうな角度ですがまだダウンフォースを産みます。ということで車の先端が地面から離れてもリアウイングはリアタイヤを地面に押し付けつつずけます。それは車前端がうんと上がりボディがリアウイングへの流れをさえぎるまでつづきます。(おおよそマイナス10度くらいでダウンフォースはなくなる)そのために車はさらに煽られて仁王立ちのようになり、つづいてリアウイングも効かなくなり平板同様になってエアボーンします。前回グラフに示したようにただの板でも39度の迎角でCLは1.4近くになります。

皆さんが150kphで走る車の窓から腕を目一杯出して手のひらを広げればおそらく風の力を実感できるでしょう。速度が300kphですと速度の二乗ですから4倍になります。ルマンカーの床面積は2x4.8メートルで、ウイングシェープからは程遠く平板に近いもののようなもの、ですからちょっと角度が付けば空高く飛んで行くはずです。実際のルマンでのこの地点での速度は330kphくらいと思われます。

ではどうしてダウンフォースで地面に吸い付いていたのに、フロントリフトが自重を超える180mm(GTPカーとルマンカーと同じ自重として)地点まで行ってしまったのでしょうか?エアボーン事故は他車の後ろを走るときに多くが発生しています。れは前の車の陰を走るので流速は遅く、乱れ、渦になったりしてクリーンな流れと比べるとダウンフォースも落ち、かつ不安定になります。また事故発生の個所は上の図の様な馬の背です。写真からおおまかに高さなどを予測したものなので正確ではありませんがここを330kphで走ると上向き加速度がかかり150kgのリフトが発生します。これで前輪荷重はさらに減ったわけです。

これらのことやら当時のメルセデスのセッティングの悪さが重なり負可逆点に達したのでしょう。2台も飛んだ後から走らされたドライバーはさぞかし怖かったでしょう。メルセデスは安全ということで名の通っている企業ですから、さぞかしビークルダイナミックスにしろ、空力にしろ、専門家が大勢いて研究していることでしょうがそこまで考えていなかったのでしょうか?それともシュミレーションするデータを持ち合わせていなかったのでしょうか?しかしレースカーは全ての限界を追求していくのが運命ですからこういうことも起きるのでしょう。

フラットボトムカー規制の主眼はコーナー速度を落として安全にしようというのが目的です。しかし性格的にダウンフォースが減るので誘導抵抗も減り、その結果直線スピードは上がります。2011年のF1のDSR(Drag Reduction System)の効果を見ればどれだけドラッグが減るかがよくわかります。ディフューザーカーがフラットボトムになるのも同じことです。現在では色々なカテゴリーでフラットボトム規制がかかっていますがエアボーンの危険性は同じで時々発生します。またスピンして車が横を向いたりしますともうお手上げで神頼みになります。アメリカのナスカーは横を向いたときにエアボーンしないようなデバイスが義務ずけられており、かなりの効果を生んでいますがあの1700kgもある車体がフワーッと飛ぶことも今だに数多く起こっています。

Cd

一般車に話を戻します。一番話題になるのはCdです。前面投影面積が2平米でCdが0.5の車と、面積が1平米でCdが1.0の車では受ける抵抗は同じになるので燃費などはCdだけでは論議出来ずにCdと面積を掛け合わせたCdAで評価します。しかし車にはトラックのような大きな車もあれば軽のような小さいのもあるので形状の性能を語るときはCdを使っております。一般車のCdがレースカーに比べてよいのはダウンフォースが無いからといってもよいでしょう。DSRを作動して走っているようなものです。プリウスが0.25ならモナコトリムのF1カーはその4倍ほどの1.1くらいあります。

以下はCdが0.1台の超低ドラッグカーです。この中で現在、皆さんが買うことができるのはアメリカの電気自動車のアプテラだけです。ほかのはどれもコンセプトカーで乗り心地などあまり追求していないでしょう。室内換気、エンジンの冷却、ブレーキの冷却、大リフト、ワイパーが利かない、バックミラーが無いなど、それら全てがドラッグを悪くするものですがこれらはあまり考慮をしていないのでしょう。タイヤ幅は走行安定性には大きく影響しますがこれらの車は幅狭の高圧タイヤかもしれません。

ではCdの芳しくない車はこちらです。

CdMakeYear
0.65 to 0.75Lotus Seven1957-1972
0.57Hummer H22003
0.54Mercedes Benz G-Class
0.51Citroën 2CV1948
0.48Volkswagen Beetle (original design)1938
0.48Rover Mini1998
0.46Ford Mustang (coupe)1979
0.45Range Rover Classic1990
0.45Dodge Viper RT/101996
0.44Ford Mustang (fastback)1979
0.44Peugeot 3051978
0.44Peugeot 5041968
0.44Toyota Truck1990
0.43TVR 3000S1978-79
0.42Lamborghini Countach1974
0.42Triumph Spitfire Mk IV1971
0.41Smart Roadster2003
0.405Subaru Forester1997-2002
0.4Ford Escape Hybrid2005
0.4Nissan Skyline GT-R R321989
0.39Ford Aerostar1995
0.39Honda Odyssey1994-98
0.385Nissan 280ZX1978
0.38Smart Roadster Coupé2003
0.38Smart ForTwo1998
0.38Lexus GX2003
0.38Mazda Miata1989
0.38Subaru Forester2009
0.38VW NewBeetle (without wing or spoiler 0.39)2003
0.372012 New VW Beetle2012

見た目だけでは意外にと思える車があるのですがそれが空力の面白いところです。"Mercedes Benz G-Class" , "Lexus GX" , "Subaru Forester"などはSUVです。それにしても"Hummer"の0.57はすごいですね。今年モデルのワーゲンバグも今時の車にしては0.37もあります。

下は1921年のドイツのランプラーです。昔の記述にCd=0.29と書いてあるので博物館から引っ張り出して風洞に入れて計測したらなんと0.28だったとのことです。横から見るとごつごつですが上から見ると魚のような流線型です。

1921年のドイツのランプラー

下はオープンのランプラーの図面です。

オープンのランプラーの図面

下の表は一般形状のCdです。 左側が3次元物体、右が2次元です。

一般形状のCd

上の表はいろいろなところから集めたものですので実験条件は必ずも一致していませんのでご注意を。また丸いような形状のものはレイノルズ数で大きく変化します。左下の流線型の回転体は前面投影面積基準です。飛行船などは形状抵抗は少なく、表面の摩擦のほうがおおきいので表面面積基準で、ウイングは上面投影面積基準が普通です。列車は車両と車両の継ぎ目の抵抗が大きいので全長を掛けるようになっていたりします。旧型100系新幹線は Cd=0.46+0.00225L(L:m)となっています。「流体抵抗と流線型―牧野光雄著」

鈴鹿 美隆 (Suzuka Racing Svc.)

1980年代のIMSA GTP マシンやC カー、また現在もSUPER GT等、数々のチャンピオンマシンの空力を手がける空力デザイナー。Megane Ⅲ RS用 カーボンリアディフューザーClio / Lutecia Ⅲ RS用 フロントディフューザーClio / Lutecia Ⅲ RS用 カーボンリアディフューザーの設計・デザインを担当